中国の高速鉄道、追突脱線転落事故 死者多数 2011年7月23日発生

2011年07月25日

[2011年7月24日情報]

2011年7月23日(土曜)夜、中国の高速鉄道が大事故を起こし、死傷者が出ている。

様々な報道を総合すると、事故現場は中国浙江省温州市。現場は温州南駅から約12キロ離れた田園地帯。線路は高架構造物上に敷設されている。なお、先日、北京−上海間の高速鉄道(中国版新幹線)が開通・開業し、大きなニュースとなったが、今回の事故は、この北京−上海の路線で起きたものではない。

天候は悪く、雷が鳴っていた。落雷(?)のために、まず、「D3115」列車が緊急停止していた。「D3115」列車の緊急停止から7分後、そこへ、後続の「D301」列車が減速しながら近づき、停止していた「D3115」列車にまともに追突した。乗っていた乗客の話によると、「D301」列車が急ブレーキをかける様なことはなかったとのこと。もしこれが真実であるとすると、「D301」列車の運転士が気付いてブレーキをかける間もなく衝突したことになる。

D3115列車には、合計約900人、D301列車には合計約500人の乗客が乗車していたと見られる。衝突後、D301列車の車両が脱線し、4両が高架下に転落した。転落した4両は寝台車であるという情報もある。これらの各車両には40名ないしは55名程度の乗客が乗車していた。4両のうちの3両は地面に落下し、残りの1両は高架からぶら垂直に下がった状態となったとのこと。高架の下は農地であり、高架の高さは約15メートル。

衝突された側のD3115列車も、2両ほどが脱線した。

新華社通信によると、停止していたD3115列車は、浙江省杭州発、福建省福州南行き。追突したD301列車は、北京南発、福州行きだった。

また、事故が起きた高速鉄道区間は、2009年9月の開業。営業速度は時速200〜250キロに設定されている。d3115はカナダ、D301は日本の技術をベースに、いずれも中国国内で生産した車両。

報道が進むにつれて判明した死傷者の数は徐々に増加し、7月24日の報道では、死亡者は43人、負傷者は211人とされている。乗客の中に、日本人は含まれていない模様。

中国鉄道省報道官は、24日、事故原因を「落雷による設備故障」とする見解を出した。詳細な検証を待たずに今回の事故の原因を特定することはできないが、上記の事故状況から推測すると、運行管理系統が正しく機能していなかったか、その機能に不十分な点があったか、人為的要因により運行管理系統が無力化されていたのではないかとも思われる。

日本の新幹線の場合、運行はコンピュータシステムで制御され、列車の運行速度も制御センターからの信号が指示する速度以上は出せないようになっているはず。また、万一落雷等で運行制御システムそのものが機能不全に陥った場合、フェイルセーフ思想により直ちに列車の運行を停止させるはず。そういう意味では、中国の制御システムがどのように構築されているか、現時点ではわからないが、少なくともシステムに異常が起こった際のこういったフェイルセーフ思想が徹底されたものにはなっていなかったのではないかとも思われる。

事故の重大さを受け、中国指導部は事態を重視、張徳江副首相を現地に派遣する一方、上海鉄路局の竜京局長ら幹部3人の更迭を決めた。


別の情報によると、事故のあった区間は、いわゆる日本のような「新幹線」区間ではなく、在来線の路線に、外国からの技術導入で製造された新幹線型の車両を走らせていたものとのこと。このタイプは、「和諧号」(「和諧」は「協調」といった意味か)と総称される。

とすると、推測だが、運行管理システムは、高速鉄道専用のものではなく、在来線用のものであったか、あるいはそれを改良したものであった可能性も考えられる。


続報である。7月24日夜、時事通信社は事故目撃者の証言を伝えている。

http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2011072400257

目撃した阮長粛さんによると、事故の起こった23日(土曜)の20時(現地時間)すぎ、落雷による停電があった。そして、線路のほうを見ると、高速鉄道の列車が停車していたとのこと。これは、D3115列車と思われる。そして、停止から10分ほどしてD3115列車がゆっくり動きだしたところに、後続の列車(こちらはD301列車)がヘッドライトを点滅させ、また急ブレーキをかけながら接近したとのこと。

この点は、先に書いた、乗客の証言「急ブレーキをかける様なことはなかった」というのとは反している。

また、阮長粛さんによると、衝突時のことを「爆竹のような音が鳴り響いた」と表現している。


[2011年7月25日更新]

週明けの7月25日(月曜)には、驚きの続報が入ってきた。

なんと、現場では24日午前に、事故で落下した先頭車両が重機で砕かれ、粉々にされて地面に埋められているとのこと。計器類がある運転室も同様に粉々にされたようで、「証拠隠滅か」との意見もネット上では見られる。

但し、中国鉄道省の王勇平報道官の記者会見によると、追突した列車からは運行記録装置が回収されたとの情報も。運行記録情報には、追突した列車の運転士と運行管理センターとのやりとりなども記録されているらしい。回収された装置を解析することにより、事故直前の運転士の対応や、事故前の信号機の状況などが検証可能となるとされている。

ただ、それにしても、事故の検証が十分に為される前に、事故車両を粉砕するということは、善意に捉えても原因究明より運行回復を優先させている、別の見方をすれば中国の鉄道のイメージダウンを恐れて隠蔽しようとしている、などと見られてもしかたない。


7月25日付の中国紙「新京報」は、事故の原因として、落雷で衝突回避システムがダウンしたとの見方のほか、先行列車の運転士が停止した際に停止情報を運行管理センターに送っていなかったという可能性や、運行管理センターから追突した列車に停止指示が出ていなかったという可能性など、人為的要因の可能性も指摘している。


7月25日の新華社電によると、25日午前には、不通となっていた寧波ー温州の路線が1日半ぶりに復旧し、一部列車の運行が再開されたとのこと。


さらなる情報である。今回の事故での、死者1人あたりの補償金の額は、15万元(約180万円)とのこと。物価が異なるので一概に日本と比べてこの金額が多いか少ないかを言うことは困難であるが、現地のメディアにもこの補償金が「少なすぎる」という意見が寄せられているらしい。


7月25日の読売新聞社説は、今回の事故の原因が、急拡大に伴う安全軽視にあるとしている。指摘のポイントは、次の通り。

(1) 中国の高速鉄道は、中国が国家的威信をかけて開発するとともに、海外への売り込みも図っていた。

(2) 運行を始めて4年余りで、中国の高速鉄道の営業距離は、日本のそれをはるかに凌ぐ8000キロメートル超に拡大。この過程で、建設は、北京五輪、上海万博、共産党創設90年(2011年7月初旬)などに合わせて、短期突貫工事で進められ、安全性がないがしろにされた。

(3) 高額の工事においては汚職もあった。鉄道相が長年の収賄を理由に、2011年2月に逮捕された。

読売の社説は、日本の新幹線の事故死者が約半世紀の間ゼロであることにも触れ、「(日本の)関係者は、今後も気を緩めることなく、万全の態勢を維持してもらいたい。」と締めている。安全が最優先であることは当然であり、読売社説に賛成する。


茂木健一郎氏は、中国当局が車両を埋めてしまったことを報じる記事に言及しながら、Twitterで次のように述べている。

「多数の死者が出た事故の原因究明よりも、「面子」や「隠蔽」を優先する。久しぶりに、議論の余地なく醜い人間の行動を見た。きっと、天安門事件のあとも同じことをしたのだろう。これだけで政府に正統性なし。 http://t.co/3QTEAO5 」

http://twitter.com/kenichiromogi/status/95394048919076864

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